こんそめぱんちのぴちぴちぱんち

自身のことや自身の興味あることについて書き記していきま……しょっ!!

第二話"僕の役目とSF"

エッセイ「きむらとかぞくとおんがくと」第二話"僕の役目とSF"


小さい頃の僕は、なんとなく生きていた。少年から使命を引き出すのも無理な話だが、あまりにも退屈なので日々に「退屈」と名づけ過ごしていた。


仕方がないので、テレビやゲームで時間を右から左へ案内する日々だった。常々、アニメーションで活躍するキャラクターたちを羨ましく思っていた。


「おまえたちには役目があっていいな。」


吉野弘の"I was born"の詩にあるように、産まれることは受身形。人間は生まれさせられるんだね…と少年が気づいたように。生きる役目も手渡さずに産んでおいて、人生の意味を探させるなんて、なんて変な世界だと思っていた。


そして、僕の人生が本格的に産声をあげたのは1995年1月17日5時46分52秒。


神戸の街を大きく揺さぶった阪神淡路大震災は当時7歳の僕の人生をも揺り起こした。


とても鈍く大きな音にビックリして目が覚めた。洋服ダンスが倒れていた。起き上がり辺りを見渡すとトイレとテレビだけに明かりがあった。"ピッー"というSOS信号とも感じ取れる音を発信するテレビには、マリオがゴールすることなくただ立っていた。役目を果たすことがないであろうマリオ。


ドドドドドドッ。


ガタコトガタコトッ。


再び揺れが襲った。まだ呑気に寝ている弟におおいかぶさった。おかんは?スナックの仕事から帰っているのかな?ただ不安で怖かった。とてつもなく不快でもあった。


少しずつ頭が冴えてきて、ある一つの妄想が頭を支配しはじめた。きっとパパが帰ってきたんだ。浮気をして女を突き落としたパパだ。そして、おかんと拳を交えている。あの喧嘩っ早いおかんならあり得る。


「この揺れからすると、悟空とベジータにも負けない強さだ。うわ〜、おっかない。でも、この強さの血を引いてるのか俺は…将来が楽しみだ!よし、なんかテンションあがってきた!とにかく逃げよう!いくわよー!」


寝ぼけまなこの弟を引きずって、家を飛び出した。見慣れた町、見慣れた道が待っていると疑わなかった。しかし2秒でそれは裏切られた。


そこにあったのは、めちゃくちゃに散らかされた日常だった。真っ赤かに染められた空、斜めに傾いた家たち、誰かの叫び声、鼻をつく焦げの臭い。まるで現実はSFの様だった。


"パパとおかんは喧嘩なんかしていなかった。"


瞬時に理解をして、自分に役目が訪れた。


弟の小さな手を引いて大きな道路へ向かう。弟を守らないといけない。おかんを探さなければいけない。しかし、おかんを求めるほど嗚咽が止まらなかった。強くあろうとするほど自分の無力さに打ちのめされた。


大きな道路に辿り着き、目にした燃え盛る空、町に落とされた真っ黒な影。もうダメだと屈服せざるをえなかった。弟と声をあわせて泣いた。一秒がとてつもなく長かった。


すると目の前に車が止まった。

 

降りてきたのはスナックから車を飛ばしてやってきたおかんだった。兄弟を強く抱きしめた。やっぱり、現実はSFの様だった。


その後、車に乗って、どこに向かったのだろうか。どこで眠りについたんだろうか。覚えていない。


ただ車のラジオから淡々と読み上げられる絶望だけが、今もまだ頭に焦げついてる。

 

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